一般的に感染症にかかると、体の中で病原体と戦うための抗体が作られます。この抗体は体の外から侵入してくるウィルスや細菌、場合によっては癌細胞に対して戦う武器になります。この仕組みを免疫と読んでいます。この仕組みを利用して、感染症にかからずに抗体を作るのに使われているのがワクチンです。
ワクチンは感染症の原因になるウイルスや細菌をもとに作られるのですが、病原体の毒性を弱めて病原性を殆ど無くしたものを使う生ワクチンと病原体の感染力を無くした成分の一部を使って作成する不活化ワクチンがあります。
その効果としては、健康な時にあらかじめワクチンを接種しておく事で前もって体の中に抗体を作っておき、病気にかかりにくくします。感染症の種類によっては、ワクチン接種だけで殆ど発症を抑えることも可能です。これは個人を守る免疫です。しかしながらワクチンの最も大事な役割は、集団の中での流行を抑制する、集団免疫効果だと考えます。更に社会的側面から考えるとVPD(ワクチンで防げる病気)から特に子供達を守る事ではないかと思います。我々のような職場環境に置かれている者にとっても重要な自己防衛手段なのはいうまでもありません。アメリカでの試算では幼児約450人にインフルエンザのワクチンを接種した場合、高齢者の死亡を3人減らすことができるそうです。この数字に価値があるかないかは個々の判断によりますが? ただ施設での高齢者の死亡事例が好きなメディアはどう判断するのか聞いてみたい所ではありますが。
しかしワクチンと言うのは必ず集団免疫効果が評価の重要な部分として検討されます。この部分が実際に接種を受けられる本人・ご家族には簡単には納得しかねる所だろうとは思います。“うちの子はここ何年もインフルエンザに罹ってないのに、ワクチンって必要?” そらそう考えますよね、普通。でも、逆の立場になって考えてみて欲しいのです。幼稚園・学校・職場にワクチンを受けていない人が、感染症にかかって施設に出てきます。そして周囲に拡散します。うちの子も、発病してしまいました。勿論ワクチンを全員が接種していたからと言って、不利益を被らないと言う保証はありませんが、確率は確実に減らせます。ワクチン先進国においては、この考え方が割と浸透しているのです。厳格に実施する事はとても困難なのですが、医療従事者である我々もVPDと言われる、自分で防ぐことが可能な疾患、に対しては取りうる対策を考えていきたいものです。(もちろん薬剤に対してアレルギーのある人は絶対に除いてくださいね)
(文責:興生総合病院 院内感染対策委員長 村上 努士)